なのでちょっと。
82なのか28なのか。
SSです。
rain
「やっぱ止まんかったか」
朝からの雨は部活を自主練に変え、まだ降り続いとる。
これぐらいの雨ならダッシュで帰れば大丈夫じゃ。
「仁王くん、傘はどうしたのです? 朝から降っていたでしょう、この雨」
ふいに背後からの問い。
確かに、朝からの雨じゃけん傘は持っとった。
「あー? 貸したんじゃ」
振り返り自分の傘を広げてる柳生に答えた。
「そうですか。お困りの方は見過ごせませんからね。貴方は優しいですから」
目元を緩めふわりと微笑み俺に傘を差し掛ける。
入っていけと言うことじゃろ。
それならありがたく送って貰おうかの。
「誰に貸したか気にならんのかの?」
男二人の相合傘。
いつもよりゆっくりした歩調。
「聞いて欲しいんですか?」
「別嬪さんじゃ。雨に濡れてて困ってたからの」
「……それは妬けますね」
「そうか? 柳生には負けるぜよ」
ポツリ、ポツリと雨脚が弱くなる。
「貴方と同じ綺麗な銀の毛並みの方でしょう?」
「なんじゃ知ってたのか」
「偶然見かけたんですよ、仁王くんが雨に濡れている猫に傘をお貸ししてるところをね」
ポツリ。
アスファルトの水溜りに落ちる雨粒の波紋が消えた。
「柳生が濡れてたらお前さんを優先するぜよ」
「では、一度傘を忘れるのもいいかもしれませんね」
「お前さんが忘れるわけなかろ」
「私だって人間ですよ、忘れる時もあるでしょう」
「じゃそん時は任せときんしゃい」
雨は上がったようじゃ。
柳生がそっと傘を斜めにし、周囲からの視界を遮った。
その瞬間に俺のくちびるを柳生のそれがかすめる。
傘を閉じるまでの一瞬の出来事。
「お前さん紳士じゃなかったかの?」
「これも雨の日の傘の使い方ですよ」
「心配せんでも俺はお前さんのもんじゃよ」
「私も貴方のものです」
本気で猫に妬くなんて可愛いやつじゃの。
「さて、雨も止んだことですし傘を返して貰いに行きましょう」
柳生の背後の空から光が漏れた。
希蝶
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