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なんとなく。
なんだっけ、この話のきっかけ。
ああ、急に寒くなって風邪引くじゃんと思ったからか。
キスチョコの話は私も聞いた話なのでホントかウソはよくわかりません。
ま、お決まりですね、風邪でキス。



  猛暑が過ぎ、ゆっくりと秋の気配を感じられるかと思いきや今年の夏はいつ終わるのかと言う勢いでまだダラダラと続いています。
  さすがに十月も目前となると朝夕は涼しくなったものの、日中の気温はまだ真夏日と呼ばれる日もありさすがに身体に堪えますね。
  そんな日々の中、今朝目覚めた時少し熱っぽいと感じました。

「風邪でしょうか?」

  体調管理には気をつけていたのですがどうやら季節の変わり目とこの気温の差に体調を崩してしまった様です。
  それでも学校や部活を休む程でもないと登校したのですが、日頃の疲れもあってか昼前には私は保健室へと向かい保健医の指示に従いそのまま帰宅しました。
  普段にかかる倍の時間をかけてようやく自宅に帰り着き、もう一度熱を測ると体温計には37度7分と表示。
  確かにぞくりとする寒気と体のだるさ。
  早く休もうと着替えベッドに横になりました。
  目を閉じても。
  こんな明るい時間に横になることなどなく意識が霧散するようです。
  日頃の習慣は身体に染み付いていて昼間から睡魔など現れません。
  せっかく早退して休んでいると言うのにこれでは無駄に時間を過ごしているだけ。
  しっかり休んで明日に備えなければと思えば思うほど目は冴えてくるばかりです。

「仕方がないですね、少し本でも読みましょう」

  先日買った医学書と眼鏡を手に取り、いつもはベッドの中でなど読まないが眠りを誘うためとベッドで半身を起こし私は本を読み始めました。
  さすがに熱でぼーっとする頭で内容の理解は無理だろうと思い手に取った本なのにどんどん引き込まれていき、気付けば夢中でページを捲っていた様です。
  いけませんね、これではますますゆっくり休む事など出来ません。
  眼鏡を外し、少々疲れた目頭をそっと押さえ、そのまま額に手を移動させました。
  手のひらに伝わる熱はまた少し上がったように感じますね。
  ここはやはり大人しく横になっていましょう。
  そう思い改めてベッドに潜り込んだ時でした。

「医者の不養生じゃの」

  ノックと同時に私の部屋に入り、人の顔を見るなりその訪問者は言いました。
  窓から入る陽はすでに薄墨を混ぜ室内を薄暗く染めています。
  もうこんな時間だったのですか。
  しかし部活が終わるには早い時間ではあります。
  と言う事は、この訪問者仁王くんはわざわざ部活を切り上げてお見舞いに来てくれたと言うことでしょう。

「私はまだ医者ではありませんよ」

と、仁王くんの挨拶代わりの言葉にそう返しました。

「志す者としては体調管理が甘いぜよ」

  仁王くんは遠慮などすることなく私の傍に寄り、そのままベッドに腰を下ろし私の顔をじっと見ています。

「病人に言うセリフではないですね」

  来てくれて嬉しいと素直に言えれば私もまだ可愛げがあるのですが生憎まだそんな風には甘えることはできません。
  仁王くんも大丈夫か? と第一声で言ってくれませんし、ここはおあいこですよね。

「それだけ言い返せる元気があればいいのうと言いたいところじゃが、ちゃんと寝とらんかったんか?」

  そう言ってじっと私の目を見つめ仁王くんは額に自分の額をぶつけてきました。

「痛いですよ、仁王くん」

  何だか恥ずかしくなってそんな言葉を言いつつ、まだ外気を纏うその体温の低い触れた額の心地よさに目を閉じてしまいました。

「目も潤んどるし、熱もまだ高い。早う横になって休みんしゃい」
「そう思ってはいるんですが眠れなくて」

  さっきまでは本を読んでいたのだと告げた。

「そんなら子守唄でも唄ってやろうか?」

  ニヤっといつものように笑う仁王くんの顔を見て何だか急に身体がリラックスしたように感じました。

「凄いですね」

  貴方が傍にいるだけで私はこんなに心地よく安らぐんですよ。

「何がじゃ?」
「仁王くんがですよ」
「子守唄が唄えることがか?」
「そうですね」

  思わずクスクスと笑いを漏らした私を仁王くんは「なんじゃ?」と見つめそれでも安心したように笑いました。
  よほど心配をかけたようですね。
  仁王くんの笑顔は身体のだるさもこの熱も気にならないぐらい私を癒してくれるのですよ。
  私にしか見せないその笑顔。
  私だけの仁王くん。

「ほれ」

  見舞いじゃと差し出されたコンビニの袋の中にはカラフルなお菓子やゼリー、栄養ドリンクなどが色々詰まっていました。

「ありがとうございます」
「すまんの、慌ててコンビニに寄ったけどそんなもんしかなくてのう」
「気持ちだけで十分ですよ」

  仁王くんが私を思い選んでくれたであろう袋に詰まったそのお菓子たちを私は愛しく思いました。
  人に思われることの嬉しさ。
  それが仁王くんであること。
  何とも言えない充足感に私は浸りました。
  仁王くんは私に差し出した袋の中にガサりと手を入れ何かを探している様です。

「あった、これじゃ」

  目の前に差し出された袋は見覚えのあるもの。
  銀紙に包まれた小さなチョコレート。

「キスチョコ言うんじゃ」

  キラキラと光を弾く小さな固体を一粒取り出し仁王くんは口へ放り込んだ。

「見たら久しぶりに食いとぉなっての」

  仁王くんが何だか嬉しそうに話します。

「……こんなに甘かったかの」

  記憶の味よりも甘かったのか仁王くんは眉を顰めつつももう一粒口に入れました。
  そんな仁王くんの顔を見ていたら私も感じてみたくなりました。
  仁王くんを酔わすその甘さを。

「私にもひとつ下さい」

  普段からチョコレートなど食べない私がそんな事を言ったので仁王くんは少々驚いて、

「何じゃ珍しいの」

と、袋の中からもう一粒取り出し銀紙を剥きました。
  コロリと仁王くんの手のひらで転がるチョコを私は摘んで口に入れます。
  熱い口腔でチョコレートはすぐに溶け、その甘さは口いっぱいに広がりました。
  甘い。
  想像以上に。

「こんなに甘いんですね、チョコレートは」
「チョコは甘いもんじゃ」

  仁王くんが笑いながら答えます。

「そうですね」

  私はまだ口内に残るチョコレートの甘さの余韻を楽しみました。

「のう、やーぎゅ」
「何ですか?」

  仁王くんがニヤりと笑い私に問いかけます。

「どうして『キスチョコ』って言うか知ってるか?」

  このチョコレートを初めて食べた人間が知るわけなどないでしょう。
  それでも私は思い当たる事を素直に口にしました。
  キスチョコと名づけられるチョコレートなのですから、

「キスしたくなる、とか?」

  その私の答えに仁王くんは思い通りと言った様に私に顔を近づけてきます。

「それはやーぎゅが俺にキスしたいと思ってるって事かのう?」

  からかうように言って仁王くんのくちびるが私のそれを掠めました。

「風邪が感染りますよ?」
「だからキスしとるんじゃ。俺が貰って帰るぜよ」

  答えると同時に掠めるキスは徐々に深く、仁王くんの舌が私の口内の熱を奪い去るように這い、代わりにチョコレートの甘さが強くなりました。
  ちゅっと音を立てて仁王くんが私から離れました。
  ぼうっと滲んだ視界に写る仁王くんの姿とさっきよりも甘いチョコの余韻。

「聞こえたじゃろ?」

  耳元で囁かれる仁王くんからの問い。

「聞こえた?」
「音じゃよ、さっきの」
「音?」
「どうしてキスチョコって言うか」
「その答えが音なんですか?」

  さっきの音とは?
  そう思った時もう一度私のくちびるは仁王くんのくちびるで塞がれました。
  いつの間に口に含んだのか、仁王くんの舌先に乗せられたキスチョコが私の口腔の熱で溶けていきます。
  あまい…。
  チョコレートの甘さに気を取られている私の意識を引き寄せるように、仁王くんはちゅっちゅっと音を立てそのまま私の目を覗き言いました。

「この音じゃ。チョコを整形する時にこんな音がするんじゃと。だからキスチョコ」
「本当に?」
「そうじゃ」
「なら仁王くんのお話ですから半分に聞いておきますよ」

  貴方は詐欺師などと呼ばれる人です…から…。
  心地よい仁王くんのキスで漸く睡魔が訪れたようです。

「ゆっくり休みんしゃい、やーぎゅ」

  そっとベッドに寝かされ、仁王くんの声を聞きながら私は眠りに落ちました。

「やーぎゅ。俺の気持ちは半分にするんじゃなかよ」

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